眼科

レーシック手術への風評被害の原因とは

冨田実アイクリニック銀座/院長 冨田 実
世界トップクラスの執刀実績を持ち、世界的名門「温州大学医学部眼科」の臨床客員教授に就任。アメリカ眼科学会が選ぶ日本人医師トップ3の一人にも選ばれました。

レーシック手術は安全性の高い視力回復手術です。

レーシック手術に対する風評被害の原因

レーシックは、世界的にも非常に安全性の高い手術として普及している視力矯正手術で、いまでも世界各国で行われています。しかし、日本では2009年に東京都中央区にある「銀座眼科」で起きた感染症事件がきっかけで、レーシックへの風評被害が広がりました。この事件は、手術に使用する器具の滅菌を怠り、角膜にフラップを作成するブレードを使い回すなどしたことで、60名以上の患者様に感染症が起こった事件です。医療機関として、考えられない行為が元で、感染症の被害にあった患者様はお気の毒としか言いようがありませんが、あまりにもいい加減な衛生管理状態には多くの先生方も目を疑ったのではないでしょうか。基本的な滅菌作業を行わなければ、どのような事態を招くかは、医師でなくても想像がつくと思いますが、レーシックを専門とする医療機関で起こってしまったため、レーシック手術のイメージダウンは避けられず、世界的にも評価が高かったレーシック手術は大きな誤解を受けることになりました。

風評被害の影響でレーシックのイメージが低下

どんな診療科目を専門としている医療機関でも、基本的な滅菌業務を怠れば同様の被害が起こることは言うまでもありません。しかし、眼科クリニックで起こってしまったことはとても遺憾であり、眼科医としてレーシック手術をはじめとする屈折矯正手術へのイメージが損なわれたことが何よりも残念に思えました。この事件はニュースや新聞、インターネットなど多くのメディアで報道されましたが、「レーシックは危険な手術」という報道が相次ぎ、その誤解を訂正することはないまま、報道が沈静化していきました。

残ったのは、「レーシックが危険」という風評被害だけで、日本国内でのレーシック手術への期待は大きく低下することになりました。こういった報道には、無責任さを感じるだけではなく、メディアという見えない力の怖さを実感する代表例ではないでしょうか。

レーシック手術の現状

レーシック手術は、安全性の高い手術として世界各国で広く行われています。もちろん、手術の安全性を確保するためには、手術の適応基準や必要な検査項目、医師の技術、レーザー機器の性能、清潔な手術空間の整備などが必要不可欠ですが、近年では、新たな機能を搭載したレーザー機器が登場し、レーシック手術の安全性は、より高くなっていると言えます。レーシックで使用するレーザーには、角膜にフラップ(ふた)を作成するフェムトセカンドレーザーと、角膜のカーブを矯正するエキシマレーザーがあります。
最近では、レーザーの照射エネルギーを抑えることで、角膜へのダメージを軽減し、角膜の組織を温存することができるフェムトセカンドレーザーが登場し、術後の合併症であるハロー・グレアの発生を低減させる効果もあるとのこと。また、エキシマレーザーでは、手術中の眼の動きを8次元で追尾できるアイトラッキングシステムを搭載したエキシマレーザーが開発され、レーザー照射の正確性が格段に向上しているようです。
そういった医療技術の進歩によって、世界各国ではレーシック手術を受ける方が増加傾向にある中、日本はたった1人の医師が起こした残念な感染症事件と、メディア報道による風評被害の影響によって、素晴らしい手術といえるレーシック手術へのニーズが減少し続けています。

レーシック手術の現状

レーシック手術とフェイキック手術に代表される屈折矯正手術は、近視、遠視、乱視を改善することを目的とした手術です。近年では、老眼を治療できる遠近両用レーシックプログラムも開発され、あらゆる屈折異常を改善できるように進化を遂げています。フェイキック手術においても、遠近両用レンズによるフェイキック手術が登場して、フェイキック手術でも老眼が治療できるとのこと。つまり、老若男女を問わず視力を改善できる時代が到来したというわけです。近視人口の多い日本は、コンタクトレンズ利用者が1500万人もいると言われていますが、その10%にあたる150万人もの方が、コンタクトレンズによる眼の病気にかかっています。また、花粉の時期は角膜とコンタクトレンズの間に花粉が入り込み、アレルギー反応による痒みに悩まされている方も少なくないでしょう。
これらのことを踏まえると、手術の安全性が向上し、裸眼での生活を手に入れることができる屈折矯正手術を検討する価値は十分にあるのではないでしょうか。

世界的な眼科学会で活躍する屈折矯正の専門医に聞く!

レーシック手術は、2000年頃から日本でも行われるようになり、2008年には年間で45万件ものレーシック手術が行われ、大きなブームとなった時代もありました。しかし、2009年に起こった銀座眼科での感染症事件を契機に、レーシックの手術件数が減少し、2014年には年間での手術件数が5万件と低減している。その中で、自らも10万症例以上の執刀経験があり、国内外の屈折矯正手術に精通している冨田実アイクリニック銀座の冨田実院長に現在の屈折矯正手術について話を伺った。冨田実院長は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界的な眼科学会で講演やインストラクターなどを務め、海外の大学で眼科教授を歴任するなど、世界各国の眼科医たちとも交流がある。現在も、屈折矯正手術や白内障手術の分野においては第一線で活躍を続けており、世界的なレーシック手術の動向について取材に応じてくれた。

冨田実アイクリニック銀座
院長 冨田 実 Minoru Tomita
レーシック手術は世界的に減少傾向にあるのですか?
冨田院長:

日本では、銀座眼科の感染症事件からレーシック手術の件数が減少している状態ですが、世界的にはレーシック手術を受ける方の数は増加傾向にあります。手術で使用するレーザー機器の進歩や屈折矯正分野が確立されてきたことが大きな要因であると思います。
他の手術と比較しても、レーシック手術の安全性や患者様の満足度は格段に高い結果を残していますので、手術を受けたいというニーズが増えるのは当然のことだと考えています。残念ながら、日本では感染症事件から根強く残っている風評被害の影響もあり、現状では回復していない状況といえます。

日本のレーシック手術が低迷していることを、どう思っていますか?
冨田院長:

感染症事件を起こした銀座眼科がレーシックを専門とする医療施設だったことで、レーシックが危険であるというイメージが定着してしまったと考えています。ニュースや新聞などでも取り上げられていましたが、感染症の原因は医師の悪質で故意的な行為で起きたものであり、レーシックが危険という訳ではありません。仮に、他の科目を専門としている医療機関で、同様の行為が行われれば、感染症に限らず何かしらの問題となっていたと思います。この感染症事件は、レーシック手術が原因ではなく、医師の悪質な行為が原因であることを正確に報道してもらいたかったと、今でも残念に思っています。

レーシック手術について、どういうお考えをお持ちですか?
冨田院長:

手術の安全性、患者様の満足度、手術の効果など、様々な面において非常に優れた手術であると考えています。最初にレーシック手術と出会ってから、もう20年以上になりますが、その間もレーザー機器の進歩、術式の進化、衛生面の確立など、世界ではより優れた手術として認識されています。日本でレーシックが本格的に開始されたのが2000年ですから、20年での大きな進歩を考えると、日本の現状は寂しくもあり、勿体ない状態だと思っています。私としては、レーシック手術を非常に優れた技術だと思っていますし、こんなに良い手術は他には無いと思えるほどの素晴らしい手術だと思います。

レーシック手術で使用するレーザー機器の進歩についてお伺いします。
冨田院長:

まず、この20年での進歩は目覚ましいものだという印象を持っています。勿論、どんな手術でもリスクが全くなという訳ではありませんが、レーザー機器の進歩によって、手術のリスクは大きく軽減されています。レーザーの照射エネルギーを改善して、弱いエネルギーで手術ができるようになりましたので、手術のダメージも少なく、早期回復が期待できるようになりました。また、ハロー・グレアといった症状を抑制する照射プロフラムも開発されていますし、手術中に目が動いてしまっても目の動きを追いかけてレーザーを照射することができるアイトラッキングシステムも格段に進歩しています。私がレーシックと出会った当初は、縦横の平面的(2次元)な眼の動きしか追いかけられませんでしたが、現在は回転、旋回、上下動、微細な角度といった立体的な眼の動きを追いかけることができます。その精度は、2次元から8次元にまで進化しています。ここでは説明しきれない細かな部分も進歩していますので、素晴らしい進歩だと感心しています。

8次元アイトラッキングシステム
ご自身のクリニックでは、レーシック手術を行われていますか?

今でも、レーシック手術は行っていますよ。あんなに素晴らしい手術を無くしてしまうことは勿体ないです。私のクリニックでは、最先端のレーザー機器を導入していますので、世界的な眼科学会でも自信を持って講演しています。20年前に発売されたレーザーも稼働していますが、最先端のレーザー機器を使ってみると、その性能の差は歴然です。
昔よりも、レーシックを受ける方は減少しているようですが、私のクリニックではご相談いただく患者様は増加していますので、素晴らしい手術であることが世間にも伝わっていけばいいと思っています。

最先端のレーシック手術について教えていただけますか?
冨田院長:

レーザー機器の進歩については、先程お話ししましたが、手術の安全性を高めるために新しい術式が考案され、世界的なスタンダードとして行われています。この術式は、私が考案したものになりますが、レーシック手術で低下した角膜強度を元に戻してあげる角膜強化型レーシックと呼んでいます。レーシック手術には、フラップ作成と屈折矯正の2つの工程がありますが、手術によって角膜強度が低下することが解っています。角膜の強度は50%維持されていれば問題ないとされていますが、角膜強化法を併用することで、元の角膜強度を維持することができます。これによって、手術後の合併症を抑制する効果が得られ、レーシック手術の安全性を更に向上することができます。強度近視の方や乱視の強い方は、角膜を削る量が多くなるため、角膜強化法は有効な手段だと考えています。

レーシック手術の流れ
  • 点眼麻酔
    局所麻酔薬を点眼します。
    ※点眼直後は、少し沁みる感じを受ける方もいらっしゃいます。
  • フラップ作成
    手術では、フェムトセカンドレーザーでフラップと呼ばれるフタを作ります。当院では、シリーズ最新作となるFEMTO LDV Z8を使用して正確で目に優しい手術を行います。
  • 屈折矯正
    次の段階では、フラップをめくってエキシマレーザーを照射して屈折異常を矯正します。当院で使用する8Dアマリス1050RSをは、どんな目の動きにも対応出来る8次元アイトラッカーを搭載しています。また、世界最速の照射スピードで、手術はほんの数秒で終了します。
  • 手術終了
    最後に消毒して手術は終了です。
角膜強化法について、もう少し詳しく教えてください。
冨田院長:

角膜強化法は、クロスリンキングという技術を使って角膜の強度を高める治療です。クロスリンキングは、円錐角膜の進行を抑える治療にも使用する技術ですが、これを応用したのが角膜強化法です。円錐角膜は、角膜の一部分が薄くなり、眼の内圧(眼圧)に耐え切れなくなって、角膜が円錐状に突出してくる進行性の病気です。円錐角膜の治療法としては、ハードコンタクトレンズを処方して経過観察をしていくことが一般的ですが、進行を抑えるのではなく、角膜の突出によって生じた近視や乱視を矯正することが目的のため、進行すると角膜の突出が強くなってコンタクトレンズが使用できなくなります。レンズを着けても落ちてしまうようになるからです。クロスリンキングは、角膜にビタミンB2を点眼しながら安全な波長の紫外線を照射することで、角膜を構成するコラーゲン線維の結びつきを強化する治療です。レーシックでも角膜が薄くなることで起こる角膜拡張症という合併症がありますが、この円錐角膜の治療からヒントを得て、今の角膜強化型レーシックを考案しました。角膜強化型レーシックは、合併症の抑制効果が得られるようになっただけではなく、近視の戻りを抑制する効果もあります。この角膜強化型レーシックが、レーシック手術の安全性向上に貢献できたことを非常に嬉しく思っています。

レーシック手術後の合併症についても教えてください。
冨田院長:

レーシック手術がいくら安全になったと言っても、手術である以上はリスクが「ゼロ」という訳にはいきません。代表的な合併症としては、一時的なドライアイ、感染症、ハロー・グレアの発生、近視の戻り、角膜拡張症などがあげられます。中でも、最も気を付けなければならないのは感染症です。感染症を予防するには、手術室や手術器具の衛生面と手術後の管理が大切だと考えます。私のクリニックでは、クリーンルームを完備して手術室の清潔環境を整えています。また、出来る限りディスポーザブル(使い捨て)の医材を使用するようにして、使い捨て出来ない器具等については、滅菌・消毒を徹底しています。しかし、ご帰宅されてからも感染症の予防は必要ですので、眼を触らない、点眼薬を正しく使用するといった指導をさせていただいています。

その他の合併症についても簡単に教えてください。
冨田院長:

それぞれの合併症について簡単に説明しますが、ドライアイはフラップ作成時に角膜の知覚神経が一時的に遮断されることで起こります。そのため、手術後はドライアイの点眼薬を必ず処方します。通常は時間の経過とともに知覚神経が回復しますので、ドライアイ症状も徐々に改善していきます。
次に、ハロー・グレアについてですが、これは夜間視力に関係します。実は、レーシック手術を受けていなくても同様の症状が見えています。普段の生活でも車のブレーキランプがギラギラと感じることはあると思いますし、私自身も普段の生活の中で実感しています。ハロー・グレアの発生は、レーザーの照射エネルギーが強いことによるフラップ切開面の凹凸や不正乱視が原因で起こるとされていますが、視力が良くなったことで、今まで気にならなかった症状を強く実感することも影響しますので、レーシック手術で手に入れた新しい見え方に慣れていく中で解消されるケースがほとんどです。最後に、近視の戻りについてですが、手術によって角膜がわずかながら薄くなりますので、その部分が眼圧に押されて前面に押されることで近視が戻ることがあります。この状態が強く出るのが角膜拡張症です。手術前の近視まで戻ることはありませんが、何年かして多少の近視戻りが発生することがあります。そのため、ガイドラインに定められている手術の適応基準を守って安全に手術を行うことが重要です。心配な方は、角膜強化型レーシックという選択肢がありますので、多くの合併症は回避できると言えます。

  • 正常な夜間視力
  • 光がにじんで見えるハロー
  • 光がギラついて見えるグレア
レーシック手術を受ける方へ何か注意点はありますか?
冨田院長:

視力を矯正する手段としては、コンタクトレンズやメガネなどのアイテムを使用することも選択肢の1つですが、裸眼での生活を夢見ている人にとっては、レーシック手術は魅力的な選択肢になると思います。手術を受ける上では、レーザー機器の性能、執刀医の経験、一貫した診療体制、保険診療にも対応できる医療機関という点に着目することが大切だと考えます。まず、手術で使用するレーザー機器が大きく進歩を遂げていると説明しましたが、実際には20年前に発売されたレーザーが使われているのも事実です。単純に考えてもお分かり頂けると思いますが、手術の精度、安全性が優れている最先端のレーザーで手術を受けた方が、良好な結果が得られることは言うまでもありません。しかし、どんなに新しいレーザー機器を使用しても、経験や実績が無い医師に執刀してもらいたい人はいないと思います。

クリニックを選ぶためのアドバイスをお願いします。
冨田院長:

まず、医療機関の診療体制が重要だと思っています。私は、手術前の診察、手術、手術後のケアは一貫して行われるべきだと考えています。手術前の診察、手術、術後のケアを分業制のような診療体制の大手のクリニックは、担当する医師によって見解も違ってきますし、毎回違う見解を聞かされるのでは患者様は安心して手術を受けることができないと思います。執刀医が責任を持って術後のケアも行うことが、責任の所在も明確で、より一層の安心感につながると考えています。また、レーシック手術は自費診療になりますが、保険診療も行っているクリニックのほうが、様々な眼の病気に対応している経験がありますので、屈折矯正手術だけを専門としているクリニックの医師よりも、どんなトラブルへも対処できる対応力があると思います。特に、患者様を集めるためにキャッシュバック制度などの営業活動を行っているクリニックは、医療機関としていかがなものかと感じています。

これからレーシック手術を検討されるかたへ一言お願いします。
冨田院長:

レーシック手術は、メガネやコンタクトレンズの生活から解放されて、裸眼での生活を手に入れられる魅力的な選択肢だと思いますが、絶対に受けなければならない手術ではありません。だからこそ、しっかりと検査を受けて、納得されるまで説明を受けることが大切です。手術自体は数分で終了しますので、負担の少ない手術ですが、手術であることには変わりありませんので、メリットだけではなく、デメリットについても知っておくことが必要です。私は、医師として患者様と見える喜びを共有できる手術を提供していきたいと思っています。

最後にレーシック手術の今後についてコメント願います。
冨田院長:

レーシック手術は、執刀している医師から見ても素晴らしい技術だと思っています。
だからこそ、風評被害でレーシック手術が敬遠されてしまっている現状は悲しくもあり、微力ながらもイメージの回復に努めたい気持ちでいます。世界的には、安全性の確立された手術として普及していますので、裸眼生活を手に入れる1つの選択肢として認めてもらえる日が来ると願っています。これまでの20年間で、レーシック手術も大きく進化を遂げてきましたので、レーシックの安全性についての理解を深めていくことが、必要だと感じています。この企画が、レーシック手術へのイメージを少しでも回復することに役立ってくれればうれしい限りです。

編集より

最初に、とても詳しくご説明頂いた冨田実先生に、感謝申し上げます。
この記事を読んでいただいた方に、レーシック手術の素晴らしさが伝わればと思っております。感染症の事件は、レーシックが危険だから起きた事故ではなく、人為的に起きた事件であることを理解していただければ嬉しく思います。インターネットが普及して、誰でも好き勝手に誹謗中傷ができる時代です。だからこそ、正しい情報を多くの皆様に知っていただく機会になればと願っております。

<協力>
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